オンサイト レポート 2024
オルガテック東京をデザインの目線から見る
5月29日から31日まで開催された「オルガテック東京2024」。3日間で55%増という4万人以上が来場し盛況でした。パブリックファニチャーの見本市として存在感を増してきた本展を、今回はデザインという視点から見てきました。
レポート/本間美紀(ライフスタイルジャーナリスト)
デザインという個性とパブリックファニチャーの相性は?
163社が集った「オルガテック東京」。東京ビッグサイトの会場を、駆け足で回った。
オフィス家具、それは大いなる最大公約数的な世界だ。家庭用の家具は個人の好みや生活スタイルによって選ばれ、「好きなもの」「自分が愛用したい」という理由で購入される。そしてデザインとは使う人の「個性」の一部となる。けれどもオフィスやパブリックスペースの家具は、主に企業の「総意」や「事業の方向性」そして厳しい「予算」の中で選ばれるもの。そこにデザインはどう作用するのかと念頭に置いて、会場を視察した。
国産ブランドは社内での潤滑なコミュニケーションを重視した家具やプレゼンテーションが主流だと感じた。調和を重んじる日本企業の風土を反映させた家具が多いのが「オルガテック東京」の特徴の一つだろう。
モチベーションが上がるデザイン
一方で、仕事の場所は家庭内や社外に飛び出し、場所や時間から解放された分、ワーカーはより生産性やクリエイティビティを求められる時代になっている。会場ではモチベーションが上がるような、デザインファニチャーをいくつか見つけた。
まずアクタス。同社はエンドユーザー家具を主業とし、エンドユーザーとのタッチポイントを持ち、デザイン感度も高い。
イタリアのモダンなオフィス家具ブランド「マネルバ」の輸入を開始した。筆者もイタリア・ミラノサローネで注目していたブランドだ。柔らかいカラートーンや、フレキシブルな収納など新しい考え方を持ちながらも、デスクやチェアなどの機能は手堅くまとめている。
家庭用の家具ではもはや当たり前になっている、生地やマテリアルのムードボードプランなども、オフィス然としないマテリアルコーディネートができることを積極的にアピールしていた。
その好例として展示されていたのが「女性エグゼグティブ」の執務ルーム。ベージュやサーモンピンクを基調にした柔らかな空間だ。
職場での男女差が薄れる時代、エクゼグティブ向けの家具というと高級感に走りがちだった中、アクタスはマネルバというイタリアのブランドをうまく活用して、オフィス家具以外の世界からのノウハウを上手く融合してみせた。
耐久性という命題を解決したデザインマテリアル
マテリアルはインテリアの世界では大きなテーマになっている。フォルムや機能のデザインが飽和した今、家具の個性も機能性もマテリアルで変化をつける。そのため、世界の家具の見本市、そして日本でも生地ブランドの知名度はあがっている。しかしパブリックファニチャーでは耐久性という命題がある。そこをクリアし、デザイン感度の高い2社を紹介したい。
耐汚性がある人工皮革では最も有名な東レの「ウルトラスエード」。サンプルだけでは伝わらない、同社が誇るカラーカードを「タンポポの花」に模したインスタレーションにして展示した。
EETYスタジオのプロダクトデザイナー遠藤絵美さんを起用し、多様な混色を表現、新たなエモーションを呼び起こしていた。
業務用テキスタイルを扱うMORIDENは列車の座面用の生地では大きなシェアを持つ企業だ。車両の座面に求められる耐久性は想像以上のレベルの高さで、多くの鉄道会社から信頼を寄せられているという。
そんな同社が今回、発表したのは素材から開発するビスポークテキスタイルだ。再生材を取材とし、キルティング加工やストライプ、ブークレなど、家庭用家具でも魅力的な業務用テキスタイルを発表。
素材開発からできる企業なので、求める家具デザインに合わせたビスポークテキスタイルが適切なロットで発注できる。会場ではフランスの家具ブランド、リーン・ロゼのライセンス生産ソファ「ROSETPrado」に「Opera」というボリューム感のあるキルティング生地を張って展示していた。
オフィスキッチンはさりげなく溶け込んで
給湯室からオフィスキッチンへ、さらに社員や社外の人が交流できるシェアキッチンへ。パブリックスペースでのキッチンは、要望はあるものの、なかなか実現への敷居は高い。そこにさらりとスマートな回答を見せたのがTeseraだ。
この写真、どこにキッチンがあるかお気づきだろうか? 一番手前の細長いキャビネットがキッチンだ。天板が水や汚れに強いサイルストーンを採用。左端にシンクと水栓が付いているが、ファイルキャビネットやデスクと同じ高さに抑え、さりげなくオフィス空間に溶け込んでいる。右端には2、3人が集まれるスナックテーブルがあり、同僚と一息つくこともできる。
同社の製品はシンプルでありながら、高い強度をもつモジュール式のシステムなので、空間に合わせて手間なく組み換えられるので、一から造作で水まわりを発注するよりも、工期やコストの軽減にもつながる。
「なんでも作るよ!」の意義
カリモク家具は横並びのデザインになりがちなパブリックファニチャーの世界で、あえて「製品メインにしない展示」に挑戦した。
キーワードは「なんでも作るよ!」だ。
カリモク家具は世界でも最大級の規模を誇る木工家具メーカーだ。多様なOEMに対応するほか、日本の森林保護や、端材の活用などサステナブル志向も強く打ち出している。
単なるものづくりではなく、企業の方向性や哲学に(エコロジーなど)沿った製造提案もできる。さらに高度な木彫設備を備え、アートなど複雑な造形の少量生産にも対応する。「まずはゼロベースから相談して、これまでにないものでも何でもつくれるカリモクの本質を見せたい」と加藤洋副社長は企業の方向性まで包括したオーダーメイドデザインに意欲を見せる。
これまで手がけてきた特注製品を中央に並べ、カラフルな布で仕切られた空間は、優れたブースを表彰する「ORGATEC TOKYO Awards」で見事にグランプリを受賞した。
次回のオルガテック東京はより柔軟で新しい発想が出てくる、会場はそんな予感に満ちていた。
レポート:本間美紀/ライフスタイルジャーナリスト
インテリアの専門誌「室内」編集部を経て、独立。家具、インテリア、デザイン、住まい、キッチンなどの取材執筆、セミナーなどを手掛ける。ドイツ、イタリアなど海外取材も多数。著書に「リアルキッチン&インテリア」「リアルリビング&インテリア」「人生を変えるインテリアキッチン」(小学館)など。